風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

雪、タナトス、猫の足跡

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昨日仙台に降った雪はばさばさとまるで乱雑な雪だった。東京生まれの私なのに雪が思い出深いというのはやはり新潟の記憶だろう。新潟の雪は水気を含んで重たい。今ここに降る雪はかさこそと粉っぽく軽く、記憶の中の雪の方がどちらかといえばタナトスの風情。ぎゅうぎゅうと地面に押し付けるような雪なのだ。かるく振り払うことを許さない雪なのだ。重たい重たい牡丹雪。ぼたんゆき。釦、雪、と思っていた。まるく平べったい釦の形。空から色とりどりの釦がざらざらと降ってきたらばそれは綺麗かもしれないな。雪靴なんてもっていないから四つ年上のMちゃんのおさがりを借りるのだけれど、おさがり、に慣れていない一人っ子の私はいつでも居心地が悪かった。おさがりのスキースーツ、おさがりのスノーブーツ。インスタントな妹のようで。確執だってあったのだ。大人には見えないだけで。一番年下の子というのは大人から一番甘やかされるから。ぼしゃぼしゃと雨のように降る雪だ。あの町の雪は。小さなスプリンクラーが道路わきでしゅんしゅん回る。タイヤに轢かれた茶色く汚れた雪が溶かされてもっとぐしゃぐしゃにもっと汚らしく。紫陽花の株に積もった雪はいつまでも青く白くしゃりしゃりとそれはかき氷のような白で。庭に続く裏の道は私の足跡だけがついている。庭に回れば一面真綿で、でもそれも濡れて重たくなったような真綿色。つんつん、と猫の足跡。曇るガラス戸に指で絵を描く。星、目玉、女の子、私の名前、誰かの名前。いつだって珈琲の香りが漂っていた。煙草の匂いも。なんだか今、ひどく眠たい。