風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

2011-01-01から1年間の記事一覧

侘助の白

侘助の花に託して 黙り込む 空と海 狭間の溶けて 消えるとき *** 侘助の白は清廉。香りも凛として美しい。新潟のW家の和室の、一輪挿しに灯るように咲いていた。 あの家の丁寧な暮らしは、「丁寧」を気負っていないから美しかった。 冬の和室は炬燵に入って…

小景

ファンニュのくれた生姜の砂糖漬けは喉の奥がきかきかするほど辛くって、こんな不味いものが好きだなんていつだか聞いた「スウェディッシュは食に頓着しない」というのは本当だったのだ、なんて思ったのだった。偏見だわね、と老女は笑うだろうが。 「こうい…

昨日の夢「塵の山、色紙、神様」

お葬式の帰り。車二手に分かれて帰る。 先に来たのは黒のサイドカー付きのハーレーで、ささっと母と誰かが乗り込んでしまった。 豪快な音を立てて走り去る。 白玉くらいの雨粒がゆっくりと降る空は灰色と黒で、木立ちはぺらぺらの紙のよう。 次に来たのは赤…

今見た夢

百貨店の靴屋で待ち合わせをしている。 まだerしか来ていない。erは片っ端から靴の試着をしている。 「私たちはみんな遅刻ばかりだったから」 そわそわする私を振り向いて言う。時間通りに来るわけないじゃん。 tから電話がかかってくる。 「みんなそろそろ…

月、星、祈り

背中に草のちくちくを感じながら寝転がっていると、ほんとうに自分というのは一人なんだなあ、と僕は感じていたのだった。 「冴えない顔してどうしたよ」 星くんが顔を覗き込む。きれいな白い顔だなあ。そりゃ人間もダイヤモンドだのなんだのと崇めるよね。 …

星、月、夜

コイビトと喧嘩をしてしまった星くんはまるで萎れたキャベツのようで。 僕は白い折り紙を折って、カモメを作った。 「星くん、ほら、君の好きなカモメ」 僕の両手から飛び立ったカモメは羽を広げて紺色の空をゆらりゆらりと、紙飛行機の速度で飛ぶ。星くんは…

夜と煙草

Hさんが煙草に火を点けると女子供達はたちまち非難轟々で、仕方なしに彼は庭に出るのだ。いつだって。あの頃私は目ばかり見張ってなかなか人と交わらないような子どもで、それでもHさんがラークに手を伸ばすやいなや、その半ば楽しげなブーイングには、参加…

4/6「Nの夢」

久しぶりに地震以外の夢を見る。 図書館のような病院。大きな吹き抜けがある。ドーナツ状の建物は上の階は明るい。ラウンジに夥しい数の本棚。 下の階は暗い。暗い階段。市役所の非常階段みたい。Tが言う。 「N、目ぇさめたんやって!」 TとJがいるのだけれ…

世界の端っこで僕たちは脇役 två

扉の向こうは冬の匂い。それでも淡く抗うようにどこからか金木犀が香る。まだ咲いてるのね。かわいそう。 パーカーのフードを深くかぶって猫背で歩く杉生くんは外国の子どもみたいでかわいい。アスファルトに黄色い葉が落ちていた。パイナップルみたいな形。…

世界の端っこで僕たちは脇役 ett

「パイナップルの樹を探してるんだよね」 と、緑色した猫は一声鳴いて消えた。 9:20、目が覚める。果たしてパイナップルというのは樹に生るものであったっけ。寝惚けた頭で考える。どうでもいい。歯を磨く。 僕の住む古いマンション(築46年)の洗面台は僕…

「W家の寝室」

二階の寝室は昼間でもどこか薄く暗い。塀沿いに植えられた背の高い庭の木のせいもあるけれど、新潟の空はどこかいつも薄暗い雰囲気がある。あくまでも記憶の中のイメージだけれど。 がらんと広い寝室の、二つ並べられた大きなベッドはそのまま私の空想の中で…

昨日の夢「読む日記」

武満徹について書かれたのらちんの日記をひたすら読んでいるという夢。 何故武満徹とのらちんなのか全くもってわからない。 「武満徹って迂闊に聞くと消えちゃうんだよ、全体像が。ヴィオロンとかに注意して!旋律が粉になって、点線になって消えていくから…

雪、タナトス、猫の足跡

昨日仙台に降った雪はばさばさとまるで乱雑な雪だった。東京生まれの私なのに雪が思い出深いというのはやはり新潟の記憶だろう。新潟の雪は水気を含んで重たい。今ここに降る雪はかさこそと粉っぽく軽く、記憶の中の雪の方がどちらかといえばタナトスの風情…

昨日の夢「rhythm」

屋外バーというところでウヰスキーを飲んでいるのだった。 焚き火がそこかしこに焚かれ、そこかしこでジプシーらしき男や女がギターを掻き鳴らし歌う。音の氾濫。 紺色の空にきっちりと縫い付けられたように、星が正確な位置で正確に光る。 指で星をなぞると…

怖い夢 261号室

これは去年見た夢。 261号室は呪われている、という電話が母からくる。 ここに引っ越してくる前に住んでいた、駒沢のマンションの部屋だという。 「やっぱりねえ、こないだ××がそこに泊まったら、猟銃をもった男の幽霊が出たんだって」 と、母が話しているの…