風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

female side 3

レイちゃんは驚いたように顔をあげる。その顔は奇妙に歪んでいる。喜んでもらえると思った私は急に胸のあたりが痛くなった。そうして私は自分自身でも驚いているのだ。小林君と別れるなんて、ついさっきまで考えてもいなかった。「別れる」という言葉が思わ…

female side 2

着替えて店を出て、途中うっかり本屋に寄ってしまったのでプロントに入るともうバータイムになっていた。照明を落とした店内で、しかし彼女はすぐに見つかった。テーブルの上には空のカクテルグラスと生ビールのグラスが半分ほど減った状態で置かれていた。 …

female side 1

怒っている女の子って、ちょっと可愛い、なんて思ってしまう私は既におばさんなのだろうか。 水曜の午後三時。バイト先のカフェに冷蔵庫の中のチョコレートみたいに硬い表情の女の子がやって来た。 赤味がかった、ローズヒップティみたいな色のふわふわとし…

雪の如く記憶の降る(雪柳)

和室の縁側には夏の終わりには蝉の死骸が、秋には蜻蛉や蝙蝠の死骸が転がっていることが多かったので、臆病者の私はあまり足を踏み入れなかった。仏壇の置いてある小さな和室には着物の入った桐の箪笥と桜の小さな鏡台が置かれている。その仏壇には十七年前…

雪の如く記憶の降る(応接間)

Hさんの淹れてくれる珈琲は、一番おいしい。彼はいつも珈琲とキャビンの匂いがした。果物をむいてくれるのもいつもHさんだった。ペティナイフでするすると林檎や洋梨をむいてくれる。オレンジもカットして食べさせてくれる。甘栗をむいてくれる。それは朝の…

雪の如く記憶の降る(朝食)

濁ったワイン色の絨毯が敷き詰められた広い部屋は、ざらざらとした手触りの薄い鼠色に砂粒のような金色や銀色がまばらに散った壁。木製のダブルベッドが二つ、丁度同じサイズのベッドが置けるくらいの間隔でおかれていて、頭の方には渋い黄緑色のカーテンの…

雪の如く記憶の降る

カーテンを開けると、夜のうちか明け方に降ったのか、山は粉砂糖を振りかけたように真白くなっていた。空は分厚い雲を絨毯のように敷いていて、曇った蛍光灯のような色をしている。子供の足が冷たいので靴下を履かせた。 夫には珈琲を沸かして、子供には温め…