風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

2009-10-01から1ヶ月間の記事一覧

あら、奥さん。お久しぶり。ご旅行だったの?あらご実家に?いやだ、大変ねえ。でもお父様大事無くてよかったじゃない。そうよ、娘の顔見たんだもの、少しは元気出るわよ。それじゃあご主人はお留守番だったの。じゃあご主人のほうが大変だったわね。男の人…

昨日の夢 「麦酒に願いを」

深夜の246を走っている。池尻大橋あたりから夢は始まる。三軒茶屋を通り越し、駒沢通りに入り公園を目指している。自転車で猛スピード。 知りすぎている景色はひどくリアルだ。夢ではなく現実だと思うほどに。東名高速の橋桁だけがむやみやたらに高く、そこ…

手紙「終末という幸福へのサイン」

Rへ 君はもうその透明な白に沈んだのだろうか。俺は日々迫り来る波打ち際に両足を浸して考える。見たこともない君は美しいままに凍結し、頬には微笑みすら浮かべているだろう。 朝日が昇り、気がつけばもう夜だ。広がり続ける世界は時さえも歪み、まるでビデ…

手紙「永遠の雪」

Mへ 大丈夫。目覚めた時に、きっとわたしはあなたの隣にいるから。安心して目を閉じればいい。 夜の闇の中で光を待つあなたの姿が見えるようです。遠い夜明けはもうその柔らかい光であなたを包んでいるかしら。 電子鴎が運ぶわたしたちの手紙も、大分間隔が…

手紙「夏の夜」

Rへ 昨日のラジオ放送で、ユーラシア大陸とアメリカ大陸が3光年の距離まで遠ざかったというニュースをやっていた。俺の島はどこの大陸に属しているんだろうな。この電波はどの大陸から飛んでくるものなのだろう。 君の手紙を読んでいると、見たこともない雪…

手紙「冬の夜」

親愛なるあなたへ あなたの手紙からは、海の匂いがするのね。波の音も。 これだけ遠く離れているのに、まだ手紙が届くというのが私には大層驚きです。それともあなたが言うように、案外私たちは近づいているのかしら。いつの日か私もこの目で人魚という生き…

手紙「夏」

Rへ 手紙ありがとう。相変わらずこちらは夏だ。君の朝は白で銀で灰色だろう。俺の朝は青で金でエメラルドといったところか。 「宇宙の車輪」とは君らしいと思った。どうしてそう思うのかなんて聞かないでくれ。俺だってよくわからない。でもその言葉は君によ…

手紙「冬」

親愛なるあなたへ 朝起きて、カーテンを開けたら雪が降っていました。庭は白いシーツを広げたように真っ白です。 空はまるで朝の光に照らされた鳩の羽のように淡い銀色で、雪は規則正しく一定の速度でその空から落ちてきます。地表に吸い込まれていくような…

Jazz in Dimmur

Dimmurという名のバーの天井には星の洋燈がぶら下がり、極めて高い場所には天の川が白々と淡い光の帯を為す。 ウイスキーコークを飲みながら隣のスツールに目をやると、Jazzが丸まり眠っている。黒猫のJazzは夢を見ているらしく、時折低い唸り声をあげる。 …

いつかの夢 「スノードーム」

もう幾年も降り続いている雪は少しずつ溶けフローライト色の海になりながらも頑なに積もり続け、私の住むマンションの11階までが既にその冷たい白に沈んだ。階下に住む人間たちはもう遠い昔に、美しいままに(或いは醜いままに或いはそのどちらでもないまま…