風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

2012-01-01から1年間の記事一覧

銀杏と金木犀 弐

金木犀から銀杏へ 銀杏さん、先日お話いたしました朝顔の女、あの解語之花が私の姿をみとめたようです。この頃など咲きこぼれるような笑みを浮かべて、煮干しなど小皿にのせて手招きしたりもするのです。あの美しい女人は猫が好きと見えます。しかしここでそ…

銀杏と金木犀 弌

金木犀から銀杏へ 蜻蛉の羽みたいな、薄青い朝です。 まだまだ空のてっぺんには溶け残った砂糖みたいに夜が残っていて、切り損ねた大根みたいなお月様がからだの向こう側を透かせて浮いています。そろそろ玉子の黄身みたいなお日さんが山のふちからあらわれ…

桐に鳳凰

日差しは柔らかな鶏卵の色になり、風が軽くなって、桐の花が咲いた。 子どもの頃、花札の桐は「霧」だと思っていた。どうしてこの絵柄で霧という名前なんだろうと思っていたのだった。庭のない家で育ったから、資子は樹木の名前に疎い。流れる霧は知っていて…

蟹と人魚

静かの海と呼ばれる湖の底には二匹の蟹が住んでおりました。二匹は射しこむ月の光をはさみで切っては丸めてそれを紡ぎ、きらきら美しい金色の糸玉を作っておりました。糸玉は人魚に売るのです。人魚はお金なんてもってはいませんが、難破した船から陸のもの…

小景

-浜辺- 白硝子で出来た浜の薔薇。ひとつひとつ踏みながら歩くと、日傘が一つ開いた。 白麻で出来た素っ気ない日傘は、水母のように蜃気楼の中を泳いでいる。右に左に、波打ち際を彷徨っている。 日傘の下の顔は、先年死んだHであった。 さくさくと鳴く砂の上…

小景

-プールサイド- 夏の午後三時。仰向けにプールに浮かぶと太陽が肌を刺す。 輝く花粉のような日の光をふんだんに浴びながら、プールサイドに腰下したキュクロプスが真珠のような少女を見下ろしている。 逆光は一つ眼に青い翳を落し、愁いを含んだその青は深い…

夜の庭

西瓜てのはね、割るものなのよ。 幼稚で、いやね。 夏の夜、縁側に腰掛けて足をぶらぶらさせながら西瓜を食べて。手のひらはべたべたでそれは顎のあたりまで辿り。下駄の鼻緒に蟻がいる。振り払おうと足を振ったら下駄が脱げた。庭の枇杷の木を見上げると、…

子供の領分

雨が降ると土の匂いは甘くて苦いです。春は雨が降るとその匂いが喉の奥まですんすんと入り込む。夏は瞼の裏まで満ちるよう。秋は唇の辺りで漂います。冬は背中のあたりでひたひたと。 馬鹿な子どもが多いから、私は春が大嫌い。 新しい教室の後ろで、窓際の…