風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

2009-01-01から1年間の記事一覧

団地の時間

中学生まで、土日は祖父母の家と決まっていた。 最寄は同じ沿線上にある駅で、そこから延々と階段を上り続け、高台にある団地が祖父母の家だ。古い団地は時間が止まっているような雰囲気で、夾竹桃の垣根の向こうだとか、紫陽花の株の内側だとか、どこか違う…

祖母のトランプ

祖母はカードゲームが好きで、泊まりに行くといつも決まってトランプや花札の相手をさせられた。そうして夜、私が眠った後は一人でソリティアや占いをやっている。 祖母のトランプはフランス製のものと、スペイン製のものがあって、絵柄もよくある市販のもの…

ばらばらと散らばる記憶の欠片

子供の頃と言えば、狭い六畳間が親の寝室兼居間で、マットレスだけのベッドに箪笥にテレビ(もらいもん二台)とピアノと卓袱台置けばもうぎっしりで、おまけにテレビの横にはコロンビアだかビクターの古くてでかいオーディオ。ぎゅうぎゅうとした空間で育っ…

昨日の夢「sprinkler」

深夜、車に乗っている。窓の外は透けるような青と黄色と深い緑のグラデーション。あたりは遥々とした平野で、地肌がむき出しの褐色と砂色の大地だ。時たま薄っぺらい影のような木がぽつんぽつんと生えている。煙色の闇が手の形をして地平線に伸びている。遥…

happy like honeybee「連想ゲーム」

卒業式に雪が降る。ふわりふわりと牡丹雪が落ちる。僕の黒いダッフルコートは肩に霜が降りたようになっている。桜の枝はまるで樹氷のようになっている。 空はじゃりじゃりと音がしそうな凍る空。鳩羽色のシャーベットみたいだ。蒸気機関車のように白い湯気を…

happy like honeybee「ドクターペッパーの櫛」

冬空。白っぽい曇り空に鳶が舞っている。ぐるりぐううるりと大きく弧を描く。川の上を随分沢山飛んでいるね、誰か死んでいるのかもしれないよ、と、洗濯物を干しながら母さんが言っていたのを思い出す。案の定、 「ねえ、川の上沢山飛んでるねえ。あれはきっ…

happy like honeybee「夕焼けシャボン」

クリスマスの匂いって、僕はあると思う。紙包みの放つ甘たるい匂い、キャンドルの淡い蝋の香り、クリスマスケーキの予感が放つ美味しい匂い。そんなものの、なんやかや。今時、商店街にだってジングルベルなんて流れないのだけど。 十二月の聖夜も間近な土曜…

happy like honeybee 「蝉と石と猫」

君って、チカダって言うんだね。蝉みたい。 初めて会った日に、最初に言われた言葉。 チカダハルオと一緒だね、とか言われることはあったけれど、蝉みたい、は初めてだった。 だって蝉ってcicadaだもん、と言う彼女は僕のことをそれ以来「蝉ちゃん」と呼ぶ。…

窓際の六人

大きな一枚硝子の窓。低めのソファに居心地のいいピアノ曲。如雨露から零れ落ちるような五月の光。テーブルの上にはシナモンコーヒーが二つ、アイリッシュコーヒーとブレンド、カフェオレ、マーマレードタルトに紅茶のシフォン。日曜日の、午後三時。 R 別…

土曜に見た夢「祖父のお菓子」

祖父と二人、青葉台の家で留守番をしている。 わたしはリビングにいるけれど、祖父は自分の部屋に閉じこもって俳句をひねっている(らしい)。 湿気で足の裏にべりべりとひっつく木の床。夏の匂いがベランダから流れ込む。古い建物なので天井が高い。四階で…

あら、奥さん。お久しぶり。ご旅行だったの?あらご実家に?いやだ、大変ねえ。でもお父様大事無くてよかったじゃない。そうよ、娘の顔見たんだもの、少しは元気出るわよ。それじゃあご主人はお留守番だったの。じゃあご主人のほうが大変だったわね。男の人…

昨日の夢 「麦酒に願いを」

深夜の246を走っている。池尻大橋あたりから夢は始まる。三軒茶屋を通り越し、駒沢通りに入り公園を目指している。自転車で猛スピード。 知りすぎている景色はひどくリアルだ。夢ではなく現実だと思うほどに。東名高速の橋桁だけがむやみやたらに高く、そこ…

手紙「終末という幸福へのサイン」

Rへ 君はもうその透明な白に沈んだのだろうか。俺は日々迫り来る波打ち際に両足を浸して考える。見たこともない君は美しいままに凍結し、頬には微笑みすら浮かべているだろう。 朝日が昇り、気がつけばもう夜だ。広がり続ける世界は時さえも歪み、まるでビデ…

手紙「永遠の雪」

Mへ 大丈夫。目覚めた時に、きっとわたしはあなたの隣にいるから。安心して目を閉じればいい。 夜の闇の中で光を待つあなたの姿が見えるようです。遠い夜明けはもうその柔らかい光であなたを包んでいるかしら。 電子鴎が運ぶわたしたちの手紙も、大分間隔が…

手紙「夏の夜」

Rへ 昨日のラジオ放送で、ユーラシア大陸とアメリカ大陸が3光年の距離まで遠ざかったというニュースをやっていた。俺の島はどこの大陸に属しているんだろうな。この電波はどの大陸から飛んでくるものなのだろう。 君の手紙を読んでいると、見たこともない雪…

手紙「冬の夜」

親愛なるあなたへ あなたの手紙からは、海の匂いがするのね。波の音も。 これだけ遠く離れているのに、まだ手紙が届くというのが私には大層驚きです。それともあなたが言うように、案外私たちは近づいているのかしら。いつの日か私もこの目で人魚という生き…

手紙「夏」

Rへ 手紙ありがとう。相変わらずこちらは夏だ。君の朝は白で銀で灰色だろう。俺の朝は青で金でエメラルドといったところか。 「宇宙の車輪」とは君らしいと思った。どうしてそう思うのかなんて聞かないでくれ。俺だってよくわからない。でもその言葉は君によ…

手紙「冬」

親愛なるあなたへ 朝起きて、カーテンを開けたら雪が降っていました。庭は白いシーツを広げたように真っ白です。 空はまるで朝の光に照らされた鳩の羽のように淡い銀色で、雪は規則正しく一定の速度でその空から落ちてきます。地表に吸い込まれていくような…

Jazz in Dimmur

Dimmurという名のバーの天井には星の洋燈がぶら下がり、極めて高い場所には天の川が白々と淡い光の帯を為す。 ウイスキーコークを飲みながら隣のスツールに目をやると、Jazzが丸まり眠っている。黒猫のJazzは夢を見ているらしく、時折低い唸り声をあげる。 …

いつかの夢 「スノードーム」

もう幾年も降り続いている雪は少しずつ溶けフローライト色の海になりながらも頑なに積もり続け、私の住むマンションの11階までが既にその冷たい白に沈んだ。階下に住む人間たちはもう遠い昔に、美しいままに(或いは醜いままに或いはそのどちらでもないまま…

昨日の夢 「畳に広がるコルコバードの丘」

小学校の時の同級生タカノくんと正門前で待ち合わせている。校庭は同窓会のようで沢山の人がいる。 門の内側でタカノくんが手持ち無沙汰で立っている。 「久しぶり」「久しぶり」「元気だった?」「そこそこに」 並んで校庭を歩く。スプリンクラーが回る中を…

昨日の夢 「忘れない名前」

道端でJ々とばったり会う。 「ひっさしぶりだねー」「元気?」「元気。そっちは?」「元気」 何年前に会ったぶりだろう。天気の良い昼下がりのどこかの道。 「最近名前を忘れちゃうんだよね」とJ々が言う。 「え、やばいじゃん。名前全部忘れたら消されち…

昨日の夢 「海星」

怖い夢を見た。 日本家屋の二十畳ほどもある一室に、父親と、近々祝言を挙げる予定の婚約者と机を囲んでいる。 父親は私の左手に座り、婚約者は向かいに座っている。婚約者の後ろには開け放した障子と庭に面した廊下。日本庭園は夏真っ盛りだ。 風鈴が鳴って…

昨日の夢 「たらふく食え」

N見と中華料理屋らしきところで話し込んでいる。目の前の円卓がぐるぐると回りつづけていて目が回りそうだ。 N見が中国人のウェイトレスに紹興酒を頼んでいるので文句を言う。 「やめてよ、嫌いなんだよね。あれオイスターソースの匂いしねえ?」 「だいじょ…

昨日の夢  In Space, No One Can Hear You Scream.

硝子のように透き通った異星人といつものバーでジンを飲んでいる。透明な身体は電球の灯りで輪郭だけが薄青く浮き上がって見える。ピアノの音と煙草のけむり。 バーテンの顔は暗くて見えない。 「きみの星にはなにがあるの」 「空中に固定された虹と、(思い…

昨日の夢 Jazzy step

ぴかぴかと赤い広いフロア。クラブのようだがDJブースがない。音楽が全体を包み込むように流れ込んでくる。 I氏が踊る。 「ほら、俺たちの頃はジャズのステップ」 ジャズのステップなるものがなんなのかわからないけれど、ああそうだね、ジャズのステップだ…

昨日の夢

昨日見た夢。 空に浮かぶ数々の帆船から銀色の雨が降る 白い砂浜が広がり、遥か彼方に浅いミントゼリーのような海 円く波打ち際に囲まれている 黒い蝙蝠傘をさしてさかさまに空を歩く影の人たち 仰向けに寝転がって全てを見ている 白い灯台の中に殺される人…

眠りの窓

あるところに、「眠り」という名の窓を持つお城がありました。 何千年もの昔から堅く閉ざされているその窓は、霧雨の降るような銀色の窓枠が天井近くまで大きくとられ、そこに嵌め込まれた硝子は不思議なことにどれだけ磨こうと霜のような曇りを拭うことはで…

トラヴィス・テレヴィジョンの後悔

トラヴィス・テレヴィジョンの一日は、同居猫のボーダレスにコーヒーと揚げたてのオレンジチョコレートドーナッツを彼のお気に入りのファイヤーキングのマグカップと水色とピンクのストライプの皿(魚の形!So CUTE!)に用意することから始まる。スト…

female side 3

レイちゃんは驚いたように顔をあげる。その顔は奇妙に歪んでいる。喜んでもらえると思った私は急に胸のあたりが痛くなった。そうして私は自分自身でも驚いているのだ。小林君と別れるなんて、ついさっきまで考えてもいなかった。「別れる」という言葉が思わ…