昨日の夢 「たらふく食え」
N見と中華料理屋らしきところで話し込んでいる。目の前の円卓がぐるぐると回りつづけていて目が回りそうだ。
N見が中国人のウェイトレスに紹興酒を頼んでいるので文句を言う。
「やめてよ、嫌いなんだよね。あれオイスターソースの匂いしねえ?」
「だいじょぶだって、ここのはジャスミンの匂いがするぜ」
そんなもんあるかいな、と憮然とする。円卓のスピードは徐々に加速し、箸がつけられない。
「唐揚げとって」
「取れない、無理」
「あんた象牙の箸使ってるからだよ。そっちの白檀の使いな」
そう言われて黒塗りの白檀の箸に取り替えると、唐揚げは難なく箸の先に捕まる。
「でも料理が扇子くさくなるなあ」
「仕方ないよ、だって(覚えていない)」
「ねえ、不倫はどうだった」
「簡単でめんどくさかった」
「なるほどね」
白檀の匂いに囲まれながら海老のチリソースやら北京ダックやらをわしわしわしと二人で食べつづける。気がつけば円卓だけではなく私たちもぐるぐるぐると遊園地のコーヒーカップのように、ちびくろサンボの虎たちのように回っている。
チャイナ服着たウェイトレスが紹興酒をもって歩いてくる。
お盆の上にいくつかのグラス。好きなものを選べと言う。N見はつるりとした白磁の花の形した盃。私は透明な墨色硝子に眸の形が彫られたグラスを持ち上げた。
なみなみと注がれる酒は薄めたバスクリンみたいな色をしている。紹興酒ってこんな色していたのだっけ。
グラスを傾けて口に含むとなるほど、ジャスミンの香りがする。ジャスミンティではなくこれは咲き誇る野生のジャスミンだ。
「だから言ったじゃねえか」
と、グラスに彫られた眸が私を見つめている。向かいに座るN見の顔がいつのまにか金魚になっている。
「あんたが殺した金魚だ。たらふく食えよ」
グラスの眸から目が離せない。野生のジャスミンの香りが、私は酷く苦手だったな、とその眸を見つめながら思い出している。