風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

昨日の夢 「海星」

怖い夢を見た。

日本家屋の二十畳ほどもある一室に、父親と、近々祝言を挙げる予定の婚約者と机を囲んでいる。

父親は私の左手に座り、婚約者は向かいに座っている。婚約者の後ろには開け放した障子と庭に面した廊下。日本庭園は夏真っ盛りだ。

風鈴が鳴っている。蝉の声と耳鳴りが不快なほど大きい。父親も婚約者も、知らない顔。

知らない顔だが、父親だし婚約者だと知っている。父親は大工の棟梁で、婚約者はその下で働く鳶職人だ。

昼間から酒を飲んでいる。冷酒。足の高い江戸切子のような盃。

三人とも愉しそうだ。私は婚約者のことを本当に好きらしく、彼が目の前に座っていることが嬉しくて堪らず、着物の袖をぎゅうと掴んでしまうほどだ。

そのうち料理が運ばれる。

「こいつが作ったもんだから、うまいかどうかはわからんが食ってくれ」

と、父親が言う。

ほかにもっと言い様がないのかと横目で睨む。

日本庭園はいつのまにか海になっている。波の音が畳にまで迫る。

煮魚や惣菜が次々と並べられる。私たちは黙々と箸を動かす。

その中に海星が盛られた硝子鉢がある。

「ああ、これは手づかみで食べるもんだ」

そういって父親はかりかりと海星を食べた。婚約者も私も海星を手に取り、口に運ぶ。

海星は薄く透き通るような肌色をしている。味が無い。

ふと婚約者の口元を見ると、だらりだらりと赤黒い血が流れている。ぎょっとして手元を見ると私の手からも血がたらりと流れ落ちる。食べているのは海星ではなく、小さな子供の手になっている。

それでも海星は本来こういうものなのかもしれないと思い、その小さな指を齧る。血が流れる。

私は泣きながら

「食べながらいつも思うんです。この子達は痛くないんだろうかって。だからなるべく優しく噛み切るようにしているのに血が流れてしまう。痛くないように痛くないようにって噛み付くんです。この子達の指は痛くないのかしら」

そう言った。私が噛み切った小さな指の切り口は黒い穴のようになっている。

涙がぼろぼろと零れる。どうしてこんなもの食べているんだろう。

すると天井から声がする。天井は暗い穴のように深く、大きな檻が吊るされている。赤ん坊から小学生くらいの子供たちがその中に犇めき合っている。私の弟たちだ。

子供たちは口々に言う。

「姉さん、次は僕の手を食べてよ。痛くなんか無いから大丈夫だよ」

天井からぽとりぽとりと小さな手が落ちてくる。

痛くないのね?本当ね?そう子供たちに聞きながら、涙をぼろぼろ落としながら、落ちてくる手を食べつづけている。