手紙「終末という幸福へのサイン」
Rへ
君はもうその透明な白に沈んだのだろうか。俺は日々迫り来る波打ち際に両足を浸して考える。見たこともない君は美しいままに凍結し、頬には微笑みすら浮かべているだろう。
朝日が昇り、気がつけばもう夜だ。広がり続ける世界は時さえも歪み、まるでビデオテープの早回しのように月日が巡る。雲は高速で乱れ飛ぶのに、どうしてだか雨粒は固定されたダイヤモンドのように蝸牛の速度で空から落ちてくる。星座はその位置を絶えず変え、新しい銀河が生まれては消えていく。何もかも、狂っている。
君の絶望が俺につながっているのだとすれば、俺の希望は君につながっている。
なんて、これはただの言葉遊び。しかし他愛ない遊びの中に、偽りの中に、まやかしの中に、真実が隠れていることだってある。そうだろう?
風がびょうびょうと吹いている。波頭はまるで水晶が砕け散るように硬質な光をその飛沫に反射させる。
さあ、終末がやってくる。
温かく、やわらかく、光で包み込むように穏やかな終末だ。
君の絶望と俺の希望が輪廻のようにつながっているのだとすれば、怖いものなど何もない。ああ、宇宙の車輪とはまるで俺たちなのじゃないか。なあ、きっとそうだろう?君がいつか雪の結晶に見た美しい幻影はそのままきっと俺たちのことだ。だから震えるこの手は恐怖のためではない。この眸を閉じてまた開ければきっと君につながるだろう。だとすればこれは幸福へのサインだ。
ミントブルーの波はいまや俺の顎の下にまで迫っている。最期にこの海の青を、無限に広がる美しく狂った世界を、君にまた見せることができるように眸に閉じ込める。シャッターを切るように。その音が、聴こえたかい?
さあ、夜明けの如き終末だ。
目覚めて初めて出逢う君に伝える言葉はハロー
Hello,Hello 愛している
M