Jazz in Dimmur
Dimmurという名のバーの天井には星の洋燈がぶら下がり、極めて高い場所には天の川が白々と淡い光の帯を為す。
ウイスキーコークを飲みながら隣のスツールに目をやると、Jazzが丸まり眠っている。黒猫のJazzは夢を見ているらしく、時折低い唸り声をあげる。
夜色の扉が開く。女が隙間からするりと姿を現して、Jazzの眠るスツールの隣に腰掛けた。黒のシガレットに火を点ける。女は唇から零れる煙を美しい左手で柔らかく捕まえ、僕の目の前に差し出す。手のひらに煙水晶が落とされる。
いつかは星屑をありがとう。あれから百年経ったのよ、知っていた?
口紅のようにべったりと甘い声だ。手のひらの水晶が灰色に弾けて柔らかく甘い煙が立ち昇り、僕の唇を掠める。
ご褒美のキス
くらりとするような甘い煙の中で、そういえば昔々に僕は煙草のけむりに恋をしたのだったな、と思い出す。
波の音が大きくなる。星々の回転音が聴こえる。
Jazzが銀杏色の眸を開いた。
刹那。僕も彼女も跡形もなく消える。
全ては猫の見る夢だったのだと気がつく。