風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

「W家の寝室」

二階の寝室は昼間でもどこか薄く暗い。塀沿いに植えられた背の高い庭の木のせいもあるけれど、新潟の空はどこかいつも薄暗い雰囲気がある。あくまでも記憶の中のイメージだけれど。 がらんと広い寝室の、二つ並べられた大きなベッドはそのまま私の空想の中で二艘の船だった。カーテンのドレープは夜の帳になり、怪しげな霧になり、或いは蜃気楼になったりした。ベッドの足元には木目調の大きなブラウン管テレビジョン。あれはジプシーの水晶玉。その灰色に映るのは占われる未来。私は海を旅する冒険者になり、あの時、あの寝室は紛れもなく果てない海原だった。