風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

crocodiIe junkie・..-

世界中のありとあらゆる緑色の全てを飲み込み、深呼吸と共に吐き出したような、濃密な緑で形成されたジャングルの一角。ニコは目を閉じたまま何者かの気配を嗅ぎ取る。それはどこか不穏で、どこか懐かしく、いつもすぐ隣にあるようで、果てしなく遠いようにも感じる。甘いような息遣い、苦いような嘆息、遠のいては近づき、今かと問えば、いやまだその時ではないと答えるような、手を伸ばせばその数ミリ先に掠っては遠のく感覚。いつでもそれはすぐそばにいて、気配を消して様子を伺っている。ニコは今その気配を生き生きと感じ取る。今がその時なのか、と片目を薄く開く。

半眼の濁った視界が捉えたのは一人のハンター。そうか、あいつがそれを連れてきてくれたのか。あいつが連れてきたのは、今か今かと俺の隣でうずうずとその気配を隠していた『死』だ。いまや『死』はハンターの構える銃口の先でほくそえみ、ニコの額に向けて唇を震わす。会いたかったよ、と死はニコに言う。俺もだ、とニコは答える。幾千ものお前を見てきたけれど、俺だけの為に訪れることはなかったから。『ニコの為の死』は、喉を震わし嬉しそうに頷く。

お前の為だけにやってきたよ、美しく冷たい鉛の玉に姿を変えて。心残りなんて、ないだろう?

ニコはハンターの足元に毒蛇の潜むのをみとめて、うっとりと目を閉じる。心残りなど、あるはずもない。お前はまるでビリヤードの玉のようだ。そうだろう?止まらずに当たり続けるビリヤードの玉だ。

深すぎる緑はまるで翳に溶け込み、最早黒に沈んだようなジャングルの中に銃声が高く響き渡る。鈍く光を放つ銃弾は正確にニコの額の真ん中を打ち抜き、その刹那、銃声に驚いた毒蛇がハンターのひかがみに強かに噛み付く。

濃密な緑の翳に死が充満し、また波が引くようにその気配は一瞬で消える。

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