風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

ハロー!ベイビーグリーン・キャッチキャッチベイビー

で、今度は手術室。麻酔やらなにやらあるので説明を受けるも、もう痛みのあまりにとことん上の空。背中にぶっとい注射されたってそんなんもう痛くもなんともないもんね。神経全体がもうやさぐれちゃってるんだもんね。ふふん、だ。

それまでずっとついていてくれた助産師さんが「赤ちゃん、私がキャッチするからね」と言う。麻酔のおかげで痛みが徐々に遠のき、それまでの疲労で朦朧とした頭に

「え?キャッチ?」

という疑問が浮かぶ。キャッチ、と言われて、赤ちゃんがぽんっとおなかから飛び出す絵が浮かんだのだけれど、実際には取り上げた医師から赤ちゃんを受け取って蘇生させる役目ということだった。ボールみたいにぽーん、ておなかから飛び出たのをキャッチするのかと思った。

麻酔は痛みを取り除くだけで、皮膚の感覚は残る。痛みはないのにおなかを切られている感覚だけがあるというのは不思議で不気味だった。あー、私いま切られてる、というのがダイレクトにわかる。ぷつっ、とか、つぅー、とか。そんなホラーな感覚を味わうこと、どのくらいだったんだろう。

赤ちゃん、いま出てきたよ、と言われて、少し経ってから「うぎゃあふぎゃあ」と泣き声が聞こえた。見たいよーと思って首を上げたら縫合している先生の手元が見えそうになって慌てて首を元に戻す。しばらくしてから「キャッチしてくれた助産師さん」が枕元にやってきて、うぎゃあふぎゃあと真っ赤な猿というかしわっしわの土偶というかぎゅっと固まった地蔵みたいな赤ん坊を抱いてきてくれた。

思わず手を伸ばすと目を瞑ったまま泣き叫んでいるのに差し出した私の人差し指をぎゅううと握り締めてくる。地蔵みたいなのにしわしわと柔らかい。言葉にならない波みたいなものが喉元から鼻の奥までぶわりと迫ってきて、あー、いまから私の目から流れてでてくんのが『感動』だとか『幸福感』てものなのかもしんない、と思った、ような気がする。気がついたらそのまま「ひーん」と泣いていた。

ヤマシタ先生が「辛かったねえ。頑張ったねえ」と褒めてくれてまた「ひーん」と泣く。もともと根性なしなのだ。

がらがらと運ばれる担架の上で、私は「いたかったよー、くるしかったよー。赤ちゃんが人差し指を握ったんだよー」と、廊下に並ぶ父、母、夫の顔を見ながらひーんひーんとずっと泣いていたらしい。手術室から出た直後のことは、全然覚えてない。

ひんひん泣いていた私は父がビデオをまわしているのに気づくと、「てゆうか、らしくなーい!ぎゃはははは!ノーメイクだし!」とげらげら笑ってもいたらしい。軽度の躁状態じゃないか。そのあたり、まるっきり覚えていないところが怖いわー。

それからもなかなか傷が治らなかったり、腎炎になってしまったり、産後のなんやかやは愚痴になってしまいそうなので口チャックです。

そんな感じで、ちびグリンは生まれてきました、のん。