風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

crocodile junkie・..

地上に広がる全ての緑を濃縮して注ぎいれたようなジャングルの葉陰で、ニコはゆったりと寝そべる。口の中にいまだ残る鉄の匂いは酷く甘美だ。大きすぎる欠伸を一つ。

鼻の先にバナナイエローの羽をした蝶々がひらりと止まる。朝獲れの蝶以外を、ニコは食べない。

きろり、と、目玉が寄り目になる。美しく揺れるそのバナナイエロー。鮮やかなトルコブルーに縁取られたその黄色い翅が揺れるのを見つめていると、また眠気に襲われる。うらうらとした光と、じとりと暑いもやもやとした空気の中で、揺れる美しい翅を眺めながらうとうととする。

不意に揺れる翅が消える。ざらりと空気が揺れる。ニコが目玉をぎろぎろと動かすと、視線の先にカメレオンの口に挟まれたその翅を捉えた。ニコは自分の楽しみを横から奪い取ったその相手を軽々しく憎悪する。カメレオンは緑の葉の色に染まり、まるでエメラルドのように滑らかに光る。ニコは素早く身体をそのエメラルド色の方へと向け、がばりと口を開き、軽く一噛みする。ただ、一噛み。カメレオンは腹の辺りで半ば千切れ、悶える。ニコはそのまま目を閉じる。とどめをうつこともせず、食べることもなく、ただ目を閉じる。

他者に食われ、命を繋ぐ糧となることは尊く偉大だ。美しく、気高い。自分の楽しみを横取りしたこのカメレオンを、そんな偉大なものにしてやる必要は、ないのだ。

ただいたぶられ、打ち捨てられたカメレオンは、誰の命も繋ぐことができず、わびしく朽ち果てる。

羊歯の葉が揺れる。どこからか甘く苦いようなバナナの匂いがする。