風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

crocodile junkie・.

美しいものたちに寄り添いたい、というのは、ニコの中の漠然とした欲望を無理矢理言葉に押し込めてみたに過ぎない。真実は知らない。それはニコの脳みその中にしか存在しない。

空腹を満たすのはそれから数分、のち。分厚く冷たい舌の上に残る鱗粉を沼の水で飲み下し、ニコは美しく黒ずむほどに深い緑色の身体をのそりのそりと動かして、音もなく水の中に滑り込む。滑り込むと同時に、そのたっぷりと巨大な体躯はぐうるりと反転し、その鋭い歯の間ではいつの間にか美しいインパラや真珠色に光るアロワナが悶え苦しんでいる。スローモーションのように波打ち、痙攣する身体、滑らかなアイボリー色の鋭い歯が食い込む場所から滴るガーネット色の血の雫。

荒々しく獰猛な動きに相反して、不思議と全ての音が消えるような瞬間だ。眸からダイヤモンドの形で零れ落ちる涙さえ、音立てずに砕ける。

ニコは骨の髄までも残さず綺麗に平らげる。後に残るのは一部始終を目撃していた虫の羽音と、美しい波紋だけ。