風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

crocodile junkie ・

世界中に散らばるありとあらゆる種類の緑色を全て集めてぎゅううと絞ったように濃く、深い、影まで緑に染まるかのようなジャングルだ。

ざくざくと零れ落ちそうな羊歯の葉の影には鰐が息を潜めている。

鰐の名前はニコ。誰が名づけたわけでもない。本当には名前なんか存在しない。鰐、という名前だって、それは人間側が勝手につけた記号に過ぎない。ざくざくと零れ落ちそうな緑滴る羊歯の葉の影に潜む鰐の名前は、ニコ。これは彼(この鰐はオスである)が彼自身の為につけた、彼にとって自分を表すための記号の一つだ。

ニコの朝はまだ星の残る夜明けの空、底に細く、暗いオレンジの光が夜の青に滲み出し、昼の間に果実という果実をたらふく食い漁ったフルーツバットの眠る頃、そよそよと陰鬱な緑色の樹木たちが夜露をその風に落とし始める頃に始まる。

翡翠を砕き溶かしたような青緑に滑らかな粘土の黄土色が美しく渦を巻く沼の畔で、ニコは朝一番に飛び立つ蝶を一頭、噛み砕く。黒い羽にサファイア色の筋の入った蝶々や、透明の羽に珊瑚色と黒の斑が入った蝶々。これは空腹を満たす為の行為ではない。

ニコはただ、美しいものたちの、もうほんの少しそばまで寄り添いたいだけだ。