ウサギとドライブ
海沿いの道を、さくちゃんは青い車に乗って走ります。
「屋根のない車はさ、潮の匂いのするやわらかい夏の風が満ちていてとても気持ちがいいね」
と、となりに座ったウサギがふんふんとベージュ色の鼻をうごめかしながら言いました。
カーラジオからはフィッシュマンズのマイライフが流れてきて、それは見渡す限りの青(空も海も車も、ついでに言えばさくちゃんのシャツも青!)の中で無限のように二人の時間に広がって、ふわふわと幸せな気分になりました。
ムゲンってなにさ?と、さくちゃんが聞きました。
無限っていうのはね、限りがないってこと。そうだなあ、君のママを見てごらんよ。
夜、眠る前に「だいすきよ」。朝、起きたらまた「今日もだいすきよ」。昼間君が例えば絵本をねころんで読んでいるときに急にがばり、と抱きしめて「ずっとずーーーっとだいすきよ」。
なんてさ。毎日毎日途切れることなくママの「君が大好き」は続いている。そんな感じかなあ。わかった?
ふーん、そうか。と、さくちゃんはまたハンドルを握ります。ほんとにわかった?
ウサギは「いいね、無限のだいすきもらってさ」とうらやましそうです。
白い坂道を越えて、車はドーナッツショップに着きました。
「チョコレートドーナッツとコーヒー、それからウサギさんにはニンジンと牛乳」
さくちゃんはママそっくりの店員さんに注文します。
「なんでぼくだけニンジンと牛乳なのさ」
ウサギはふまんげに足をトントントンと鳴らしました。
「だってウサギってニンジンが好きでしょう?」
「ウサギがみんなニンジン好き、って決め付けないでほしいね!」
と、ウサギはひとはねして店員さんに「ぼくはきなこのオールドファッションとカフェ・オ・レ、ね」と言いました。
テラスに座って、海を眺めます。深い青の上をはねるように光るおひさまの光。
さくちゃんはウサギさんに聞きました。
「これもムゲンみたいなもの?」
ウサギさんは口のまわりも、ひげの先まできなこをくっつけながら
「そうさね。ぼくらが見える範囲ではこれだって無限てことだよ」
と、答えました。
果てがある、なんておもっちまえば、はい、それまでよ。ってこと。
ママへのおみやげにシナモンシュガードーナッツとオレンジドーナッツを包んでもらって、さくちゃんとウサギはまた青い車にのりこみました。
エンジンは、がろろろろん、と、軽くてきれいな音をたてます。
空はあかね色。
あかねいろ、ってなにさ、と、またさくちゃんが聞きます。
あかね色ってのはね、ああ、ほら、君のシャツについているじゃないか。そのボタン。ママがつけてくれたそのボタンみたいな色。
ふうん、そっか。と、さくちゃんはブレーキをふみました。
キッチンに到着です。
ママがお皿をとだなから出しながら聞きました。
「ドライブ、楽しかった?」
「うん、さくちゃんとウサギさんでドーナツたべたの。それからくるまではしったの」
「よかったねえ」
ママはなんでもしっています。
今日のおゆうはんはハンバーグ。たーんとめしあがれ。