風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

But not for me #2

ねえ、カンノ覚えてる?あんたタキシードにジーパン穿きたいんだ、って言ってたの。紋つき袴発言の帰り道、並んで歩いているとき言ったんだ。「俺、結婚式は白のタキシードの下にジーパン穿きたいんだよね。タキシードもオーダーメイドでさ、コットンとかで作んの」って。「変かなあ」って。

「変だよ」って言ったけど、カンノなら似合いそうだと思った。

「じゃあ、トウコは何着るさ?」

「あたしはねえ、自分で作るかな。髪の毛ジーン・セバーグみたく短くして白っぽい金髪にしてさあ、で、ドレスはちょっと短めの丈でシルクとかじゃなくってさ。素朴なやつ。で、花冠すんの」

「うわっ。なんか本気。乙女だねえ、大島弓子だねえ」

葱畑の見える道。夕日が泣けるくらい綺麗だった。私たち、歩くの遅いからよく二人取り残された。

「したらさあ、俺のも作ってよ。タキシード。作れそうじゃん?手先器用だし。ドレス作れんならいけるべ」「高くつくぜー。てかあんた結婚できるつもり?」

ずうっと遠くにリョウタロウの後ろ姿がくっきりとしたシルエットになって見えていた。イトウとササキとじゃれ合っている、綺麗なシルエット。

リョウタロウは大学1年の夏に私の恋人になった。リョウタロウとカンノは地元が一緒で、高校の時からの友達同士。カンノは一浪して私達と同じ大学に入った。19の春に私はカンノと出会う。

金井美恵子、猫、クリムト、バッハ、ウィーザー、古着、モボ・モガ、コーヒー牛乳、夕焼け、海、江の島、図書館の匂い、夜飲む飲み物、クレヨン王国、川沿いの道、エトセトラ。好きなものが似ていた。好きな場所が似ていた。きっとリョウタロウに紹介されなくても、私たち友達になっていただろう。

そしてもしリョウタロウがいなかったら?

パチパチパチパチとシャワーみたいな拍手の音がして、スライドショーが終わる。新婦が少し泣いている。なんだか白ける。自分の中に新婦に対して意地悪な気持ちが存在するのを、私は否定しない。別にいいじゃない、とむしろ開き直る。

だって、私はあんたより先にカンノを見つめてきたんだから。

白けた顔したっていいじゃない。

あんたはこれからさきずっとカンノの隣にいられるんだから。

アーモンド風味の南瓜のラビオリを食べながら、過剰に悪ぶろうとする自分がいる。だって、悲しむよりも怒りの感情に身を任せた方が心をすり減らさずにすむ。少なくても今はそう思えるのだ。