風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

アクアリウム

昔読んだ澁澤龍彦の小説に、海の水で詩を書くと薄青い文字が綴られる、というような光景があった。うろ覚えなので間違えているのかもしれないけれど。

その頃住んでいた家の近くにはプラネタリウムが併設されている大きな図書館があって、小学校から高校にかけてよく通っていた。

ちょっとした美術館ほどもあるその図書館の、ひんやりとした水槽にも似た暗さと透明感は心地よく、きちんと仕切りのある清潔な個人机も沢山あり、ぼんやりと本を読むにも居眠りをするにももってこいの場所だった。

流れのない水の中に漂っているかのような感覚。

本を借りて返すという行為は煩わしくほとんど借りたことなどなかったけれど、図書館の中に閉じこもっているのはとても好きだった。

図書館の底で水草のようにぼんやりと一日を過ごしていた。適温に保たれているにもかかわらず、どこかしっとりと冷たい空気の中で、海の水で書く文字は、空と水平線の境目のような儚い薄水青であるにちがいないなどとくだらない妄想をするのが好きだった。