風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

Seven Snow Jack「老・ストークスの証言」Ⅳ

最初は目隠しをしているのかと思った。水色の、赤い星が刺繍された綺麗なリボンで目隠しをしているのかと。しかしそれは良く見れば刺青だ。そうしてそんなイカレタ刺青をしたやつなんてこの世にアイツのほかいないじゃないか。

(老・ストークスは僕らをじろりと睥睨する。僕らは囁くように「セヴン・スノウ・ジャック」と答える)

そのとおり。伝説の殺し屋。われわれの歪んだ英雄、セヴン・スノウ・ジャック。あんなものはただの伝説。はなから信じてなんぞいなかった。母親に「悪さをすると七月になったらセヴン・スノウ・ジャックに連れて行かれるよ」なんて言われることもあったが、そんなこと本気で誰が信じるものか。しかし私は見てしまった。何を?

現場を。確かにキチガイじみてはいるが、これはれっきとした殺人現場だ。私はその目撃者になってしまった。殺人者は、彼だ。

相変わらず美しすぎるほどに白い雪を降らせながら、セヴン・スノウ・ジャックは私のほうを微動だにせず、見つめている。

気が狂うほどに考えた。僕は何か悪いことをしたっけ?ああ、そういえば先週牧師さんとこのワンダの尻尾に蝿取り紙をくっつけて狂ったように自分の尻尾を追い掛け回すワンダを見て笑った。そうだ、五月の野外研修をさぼってヨハンたちとこっそりシガーを吸ったっけ。レビオンの店でチョコレイトキャンディをくすねた。まるで万華鏡の中身がくるくる形を変えるように次から次へと自分のした悪事(取るに足りないことばかりだがね、今思えば)が頭に浮かぶ。鳥肌は消えない。同じく私の罪も消えない。私もエルンストのようにやられてしまう。思わず目を閉じてこぶしを握り締めた。

しかし、気がつくと鳥肌は消えて、しっとりと甘いような青いような夏のあの空気に私は包まれていた。遠くからの祭りの音がかすかに耳に届く。人魚の尾ひれに霜はもうついていなかった。のろのろと立ち上がり、ジュースとドーナッツの入った袋を抱え、ランタンをぶら下げて歩き出す。あれは夢だったのだろうか。なにかの幻だったのだろうかとぼんやりする私の頭を金槌で殴るような光景が残されていた。

私は甲高い叫び声をあげ、祭りの広場へと闇雲に走り出した。