風景喫茶

備忘録(風景喫茶より)

2010-01-01から1年間の記事一覧

Polaroid sea

ユウビン、と、電子鴎が運んできた茶色い小包の中身は、錆びた金属の箱だった。 青と緑の錆びに覆われたその箱の中からは、微かに波の音が聴こえる。キイロは食卓のブランコに腰を下ろし、蓋を開けた。 中にはポラロイドが一枚。美しい青は、水面を写してい…

pastel

散歩中に見つけた路地にはカラフルなシャッターが下りていて、何かの色に似ていると思ったら子どもの頃に持っていたパステルだった。 母親は図面を引く仕事をしていたし、父も図面とは遠くない仕事で趣味では絵を描く人間で、おまけに祖母は油絵を描く人だっ…

昨日の夢「Coca-ColaPanic」

コカ・コーラ工場にピクニックに来ている。 空に浮かぶ入道雲と太陽の光は完璧な夏だ。 工場と言っても建物はない。遥々と草原と丘陵が広がっている。 ピクニックに来た人たちはみな芝生に寝転び、空を眺めている。 その頭上には巨大なロケット型のコカ・コ…

Seven Snow Jack「老・ストークスの証言」Ⅴ

あとは人から聞いた話だ。叫び声をあげながら祭りの広場に走りこんできた私はわけのわからないことをわめきたて、人魚の広場、エルンスト、セヴン・スノウ・ジャック、ナイフ、そればかり繰り返していたそうだ。まったく記憶に残っていないがね。シェリフが…

Seven Snow Jack「老・ストークスの証言」Ⅳ

最初は目隠しをしているのかと思った。水色の、赤い星が刺繍された綺麗なリボンで目隠しをしているのかと。しかしそれは良く見れば刺青だ。そうしてそんなイカレタ刺青をしたやつなんてこの世にアイツのほかいないじゃないか。 (老・ストークスは僕らをじろ…

Seven Snow Jack「老・ストークスの証言」Ⅲ

不意に、背中の後ろ、人魚の像の向こう側。私の座る位置から対面にあたる場所に人の気配が漂った。がちがちに凍る体を軋ませながらそろそろと振り向くと、そこには仕立て屋のエルンストが手持ち無沙汰に立っていた。ただ散歩に出てきたようにも見えるし、誰…

Seven Snow Jack「老・ストークスの証言」Ⅱ

昼間とは全く違う顔だ。取り込み忘れた洗濯物の白いタオルはなにかの葬列のように不穏だった。何度も後ろを振り返ったよ。すると今度は前の方からひそひそと足音がするようなんだ。でも誰もいない。前にも後ろにも、吸い込まれたらディクレッシェンドのよう…

Seven Snow Jack「老・ストークスの証言」Ⅰ

老・ストークスがセヴン・スノウ・ジャックを見たのは彼がまだ子どもの頃(燃えるような赤毛、磁器(ビスク)のような滑らかな肌、深く湖水に沈む底の底の深い青色した眸を持つ美しい少年だったのだよ、私はね。と老・ストークスは自慢げに語る)、十歳の誕…

六月朔日 urihari

じりりりりり、と目覚まし時計が鳴る。 こんな音は聴いたことがない、と寝惚ける頭で考えている。ああ、そういえば先週時計を替えたのだった。新しい耳慣れない耳障りな、音。 猫が騒音に抗議するように、にぃん、と不満げに鳴いて布団から飛び出た。テーブ…

banana defender

「りーくんね、ばなな、おいしくないって、いったんだよ」 「えー、そうなの?りーくんバナナ嫌いなんだ?」 「んん、ばなな、おいしーよね」 「おいしいよねえ」 「ばなな、おいしくないっていったら、ばなな、ないちゃうよねー。 ばなな、えんえん、て、か…

子供と夜の時間

Wの家ではいつも私は一番年下で、一人だけ子供で。それはつまらなかったり面白かったり、勿論、色々だった。 でも大概面白いことのほうが多かった。ここの大人たちは子供だからといって「夜の時間」を出し惜しみしなかったから。 夜中のトランプ、夜中の卓…

先日の夢「メキシコガーデン」

先日の夢。 メキシコシティさんの家に遊びに行った。 メキシコ邸は昔ながらの日本家屋で、漆喰の壁に黒い柱。紫陽花と向日葵が咲いていて綺麗だ。 赤い着物のメキティさんが迎えてくれる。二階のお部屋で一緒にお茶を飲む。時計がボーンボーンと鳴ると窓の下…

夜の迷路

夜の迷路で煙草をふかす。空には硝子細工の月の上に右手の形した雲がかかる。 夜空は透明な青を何層にも重ねたような不思議に暗く光る海のような深い青で、ひどくやりきれない気分にさせる。 ひと月前、三月ウサギの影をうっかり踏んでしまって、俺は夜の迷…

昨日の夢「Sevensnowjack」

怖い夢を見た 保育園のお迎えが遅れて夜になる。 台風前の分厚い灰色の空。不穏な色。雲が渦巻く。雨の音が強くなる。 お迎えは混雑している。知らない子供と知らない親たち。不意に一人の母親が私の目の前20cm程に近づいた。 酷く不安にさせられる距離だ。 …

五月朔日 yubune

昨日の洗濯物にアイロンをあてる。明日の来客の為に水羊羹を作る。抹茶のものと、塩漬けの桜を入れたもの。洋菓子が似合う顔立ちのくせして、あの人は和菓子に目がない。いやいや洋菓子が似合うというのも嘘か。あの人に似合うのは、例えば、、 気がつけば五…

五月朔日 hirugemade

夢うつつの狭間で猫が鳴くのが聞こえる。なあぁおなああぁぉぉと寄せては返すように小さくなり大きくなり、そのうちに男の声が耳打ちするように響いたのだけれど、それはやはり夢だった。 床に落としたタオルケットを拾って布団の上に投げる。窓を開けると雨…

俯瞰

二階の部屋から干した布団に両腕と胸を預けて庭を見下ろす。モンドリアンのように分割して右上が駐車場、左上は物置。その下半分が芝生、その下芝生の三分の一程の長方形のスペースに白とグレーの大き目の石が敷き詰められている。芝生の左側の境目にはパン…

四月朔日 watanuki

猫に踏まれて目が覚める。空は姿勢良くはためく旗のように潔く晴れている。 私の顔を踏みつけた猫は知らん顔して布団の端っこにごろりと座り、悠然と股の間など舐めている。いやあねえ、お前には羞恥心がないものねえ、とせめてもの憎まれ口叩きながら服を着…

crocodiIe junkie・..-

世界中のありとあらゆる緑色の全てを飲み込み、深呼吸と共に吐き出したような、濃密な緑で形成されたジャングルの一角。ニコは目を閉じたまま何者かの気配を嗅ぎ取る。それはどこか不穏で、どこか懐かしく、いつもすぐ隣にあるようで、果てしなく遠いように…

ハロー!ベイビーグリーン・キャッチキャッチベイビー

で、今度は手術室。麻酔やらなにやらあるので説明を受けるも、もう痛みのあまりにとことん上の空。背中にぶっとい注射されたってそんなんもう痛くもなんともないもんね。神経全体がもうやさぐれちゃってるんだもんね。ふふん、だ。 それまでずっとついていて…

ハロー!ベイビーグリーン・地獄の陣痛

しかし地獄は14日の昼前にやってくる。ちびも相当そっからでたかったのか、陣痛は既に10分間隔くらいになっていて、その痛みったらもう想像つかないような代物で。母親が「なんかちょっとおなか痛い…うううっ、てくらいでするっと産まれたわよ」なんていう安…

ハロー!ベイビーグリーン・破水でスタート

2007年5月13日、午後6時。 買い物から帰ってソファに腰をおろした途端に水風船を踏んで弾けたような感覚があって、あれれ、これがもしや破水というやつか、と慌てて夫に「破水かも!病院かも!」と告げる。病院に電話すると、「ああ、それは破水かもしれない…

crocodile junkie・..

地上に広がる全ての緑を濃縮して注ぎいれたようなジャングルの葉陰で、ニコはゆったりと寝そべる。口の中にいまだ残る鉄の匂いは酷く甘美だ。大きすぎる欠伸を一つ。 鼻の先にバナナイエローの羽をした蝶々がひらりと止まる。朝獲れの蝶以外を、ニコは食べな…

crocodile junkie・.

美しいものたちに寄り添いたい、というのは、ニコの中の漠然とした欲望を無理矢理言葉に押し込めてみたに過ぎない。真実は知らない。それはニコの脳みその中にしか存在しない。 空腹を満たすのはそれから数分、のち。分厚く冷たい舌の上に残る鱗粉を沼の水で…

crocodile junkie ・

世界中に散らばるありとあらゆる種類の緑色を全て集めてぎゅううと絞ったように濃く、深い、影まで緑に染まるかのようなジャングルだ。 ざくざくと零れ落ちそうな羊歯の葉の影には鰐が息を潜めている。 鰐の名前はニコ。誰が名づけたわけでもない。本当には…

土曜の夢 「偽物の太陽のサンプル」

勤めている会社の研究部員から、「本物よりも本物に近い偽物の太陽のサンプルが完成しました」と言われてロビーに下りるとそこはまるで神殿のようだ。 太い円柱の隙間から見えるのは雲が乱れ飛ぶ空で、楕円の形したロビーは擂り鉢状に窪んでいる。 天井から…

中庭の夜と春

日当たりの良いベッドの上に座って洗濯物の山に突っ伏すと粉っぽい洗剤の清潔な匂いと、日の光の乾いて温かい匂いが鼻腔から喉の奥にまで広がる。 ベッドの高さから窓は大きく取られていて、そこからこのマンションの中庭が見下ろせる。中庭はコンクリートの…

フェンスの穴、プールの屋根

フェンスの穴を抜けると、スイミングスクールの屋根に上ることができた。フェンスは高台にあるマンションの廊下に面していて、その高台の下にスイミングスクールが建っていた。高低差が丁度スイミングスクールの屋根=そのマンションの一階で、『そのマンシ…

置いてけぼり

あれはいじめが終わった頃だから小学四年生だか三年生の終わりだったと思う。 昼休みに、三人の女の子たちに「学校終わったら遊ぼう」と誘われた。その子達はクラスの中では目立つタイプの子らで、もちろんいじめにも率先して加わっていて、そのときは誘われ…

昨日の夢「リリーさんにハロー」

白く明るい夏の道。アスファルトが乾いて土くさい。 自転車に乗っている。眺めのいい坂道で、ぐねぐねと上下の激しい長い坂が四方八方に広がっている。 頭上には銀色のモノレールが走る。風は強いが音はなく、人もいない。無音の夢って初めてかもしれない。 …